〈桜井市〉日本刀の伝統を受け継ぎ未来へつなぐ(刀匠 月山 貞伸さん)

《連載》自然と暮らす vol.165

刀匠/月山 貞伸さん

日本刀の伝統を受け継ぎ未来へつなぐ

日本の鉄工芸の粋を集めた日本刀は、 美術的価値も高まり今や世界中に愛好家を持つ。その刀鍛冶として名刀を作り続けてきた「月山家」。桜井の山の辺の道沿いに「鍛錬道場」を構え、奈良県指定無形文化財保持者の月山貞利氏、さらにその長男の月山貞伸氏が道場を支える。

鉄の槌で打っていく

玉鋼
静かな里山にたたずむ道場は、隅々まで丁寧に掃除されている。周囲にはしめ縄が張られ、真っ白な作務衣に身を包んだ貞伸氏が現れた。
「本来、刀は神様に捧げるものとして制作され始めました。その後も守り刀や実用として時代ごとに大切にされてきた。だから我々も精進潔斎して仕事に取り掛かります」と貞伸氏。
月山鍛冶は日本で4番目に古い鍛冶集団として山形県に誕生した。祖は鬼王丸。山形の月山は山岳信仰の山で、全国に修行に出る修験者の護身用の刀を作り始めたのが月山鍛冶集団の始まりだ。
時代が進むにつれ衰退の目に遭い、江戸末期に月山貞吉が再興しようと大阪に移住し、大阪月山の礎を築いた。大阪月山家となってから貞伸氏は6代目となる。

玉鋼を何度も高温で熱して切っては折り曲げて精錬する「折り返し鍛錬」。この回数や方法により「綾杉肌」が現れる。この後、刀の形を作り上げ、刀紋と反りを入れ、形を整える。 「ここから“鍛錬する”という言葉が生まれました。人も一緒で苦労して一人前になります」と月山さん。

弟子らと「あうんの呼吸」が必要

一番の特徴は刀身全体に波のように流れる「綾杉肌」。別名月山肌ともいわれる。これは月山鍛冶ならではの技術だ。
刀剣の世界は、大和、山代、備前、相州、美濃といった五か伝が存在する。相州伝正宗、備前長船、奈良大和伝など多くの名刀があるが、月山はこれらには当てはまらない伝法。またこの五か伝はすでに後継者が途絶えており、800年以上続くのは月山家だけだ。
明治に入り、廃刀令が発布され多くの刀鍛冶が廃業に。だが月山家は刀剣彫刻を施して日本刀に美術的価値を加え、初の帝室技芸員(今の人間国宝に当たる)に選ばれるほどに。また依頼を受け皇室にも刀を献上してきた。
その後、祖父の時代は戦後の苦難で道場を転々とし、昭和40年に桜井の今の場所に移転。それまでの技術と苦労が認められ人間国宝になった。その状況から大学に進んだ父貞利が刀鍛冶の技術を残さなければと痛感、5代目となった。
時が過ぎその長男貞伸氏は、祖父や父の仕事を観るにつれ、ぼんやりと刀鍛冶になりたいと思ってきた。大学進学時、両親から「苦労するからやめとき」と言われたが父に弟子入り、雑用から始めた。
本格的な修業は大学を出てからだ。刀鍛冶になるには最低5年修業した後、文化庁の実技試験に合格しなければならない。修業中は思うようにならず苦労があったが、いざ自分の刀が作れるようになってからは、それまでの苦労が喜びに変わるようになった。
大変なのは1200度~1300度の火を扱うこと。「火から逃げてたら仕事にならん。向かっていけ」と師匠に薫陶も受けた。今もやけどは日常茶飯事だ。

左から、弟子の河出卓哉さん(34)、吉本貞隆さだおきさん(30)、5代目月山貞利さん(75)、月山貞伸さん。吉本さんはすでに10年修業し新人賞も受賞、今春独立する。

日本刀の作り方は、工程が多数あり、刀鍛冶が9割ほど仕上げて、最後に研ぎ師、さや師など別の職人が完成にこぎつける総合芸術。一振りの刀を作るのには一年かかる。
刀は姿と、地金、刃紋が見どころと言われる。「地金はうちは綾杉肌ですが、正宗は板目肌、奈良の大和伝は正目肌、京都の山代伝は梨地肌などが現れます」。この地金は玉鋼を切っては折り返す「折り返し鍛錬」の回数や折り返し方で変わる秘法だ。
刃紋は、それぞれの刀鍛冶が焼き入れの時に創意工夫を凝らして出来上がるもの。「姿は時代、地金はどこの肌か、紋は誰の制作か、これらが見どころです」
現在、弟子としての修業を経て15年。様々な賞も受賞し、刀匠として名をあげてきた。
「最初は技術を磨くことに精いっぱいでしたが、やっと人の守り刀を作るというのはどういう心構えで臨む必要があるのか、伝統を守り伝える重みと責任も理解できるようになってきました」。
刀 月山貞伸作(現代刀職展 日本美術刀剣保存協会会長賞) 刃を上にして展示しているのが刀、刃を下に展示しているのが太刀

フランスを代表するハイジュエリーブランド・ショーメによるフランス文化と日本文化の対話イベント「フランスと日本文化のConversation―ショーメのサヴォワールフェールと日本の名匠3人の対話」でのコラボレーション展示

ただ、今の時代に日本刀の魅力を伝えるには見せ方が必要と痛感している。『エヴァンゲリオンと日本刀』展などで若者たちに日本刀の価値を知ってもらえるきっかけになり、ゲーム『刀剣乱舞』でのブームでそれを実感した。さらに有名時計や高級宝石ブランドとのコラボなど、来る仕事は積極的に受け挑戦を続ける。
「日本刀を価値あるものとして見てもらえるようぶれることなく一層精進します」

記念館

Profile

月山 貞伸

GASSAN SADANOBU

1979年生まれ。42歳。 桜井市に生まれる。京都産業大学入学と同時に月山貞利師に入門。 2006年文化庁より作刀承認。その後、新作刀展新人賞、お守り刀展文部科学大臣賞受賞など多数。
基本情報 Basic Information
月山日本刀鍛錬道場・記念館/がっさんにほんとうたんれんどうじょう
  • 住所: 奈良県桜井市大字茅原228-8
  • 営業時間: 開館日;3月~11月(8月は休館)の土曜日のみ 開館時間;10:00~16:00
  • 料金: 入場料:無料
  • アクセス: JR三輪駅下車 山辺の道を北へ徒歩15分
  • TEL: 0744-42-3230
  • HP: http://gassan.info/
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