〈十津川村〉フランス由来の森林活用を奈良の山奥から発信（空中の村ジョラン・フェレリさん）

《連載》自然と暮らす vol.169

空中の村（十津川村）／ジョラン・フェレリさん

十津川村南東部の山奥にある21世紀の森・紀伊半島森林植物公園。1889年、明治の十津川大水害で土砂崩れが発生した場所に造られた公園で、自然林を含め約200ヘクタールの広さを誇る。

紀伊半島に自生する植物1400種以上を展示する樹木見本園をはじめ、桜や紅葉など四季折々の自然や野鳥観察が楽しめる大自然の遊び場となっている。その園内の一角で2020年に開園したのが「空中の村」だ。

地上4～12メートルの高さに位置する空中に浮かぶアウトドア施設で、特殊な網の吊り橋で木々の間を自由に行き来することができるほか、網で作られた憩いの場や木製のプラットフォームで、おやつを食べたり読書や昼寝をしたりと特別な体験ができる。年齢を問わず誰でも空中で森林浴を楽しめると人気だ。

同施設を運営するのはフランス人のジョラン・フェレリさん。ジョランさんは大学院で経営学を学ぶため2014年に来日。これまでにもアフリカや北欧など世界各地を転々としており、はじめは日本に特別な興味はなかった。

しかし日本で暮らすうちに料理のおいしさや治安のよさ、また生活の中で多くの人に助けられたことで日本が好きになり、残ることを決めた。

卒業後は林業に携わりたいと十津川村の地域おこし協力隊に赴任。村内で林業の手伝いをしながら当時フォレスター制度の導入で同村を訪れていたフランス人の通訳も担当した。

空中の村について考えるようになったのは働き始めて半年ほどたった頃だ。きっかけは2つ。1つは木材生産以外に山の活用方法が見出されていなかったこと。

フランスをはじめヨーロッパでは森林を資源供給だけでなく、レクリエーションといった余暇活動の場としてとらえている。近年人気となっている「ジップライン」のような森林アスレチックなども実はフランスの軍隊などの訓練施設が発祥だ。

また日本ではこうしたレジャー施設が子ども向けのものが多い点にも注目した。「おそらく日本では大人が山の中で遊ぶという感覚がないんだと思いました。だから山を活用した大人でも楽しめる遊び場を作ろうと思ったんです」

早速、協力隊の仕事の合間に企画書を作成。「既に日本にあるものではダメ、今までにないものを」と母国フランスの遊具を使った空中浮遊施設を造る計画を村に提案した。

立地や必要な資格、施設の維持管理など様々な課題も多かったが、議論を重ね無事に賛同を得られた。「いろいろな課題の解決に時間がかかりましたが村の人たちも公園を何かに活用できないかと考えていたようで実現することができました」

協力隊の任期が終わると作業に取り掛かった。フランスから12人の技術者を招き、ジョランさんも作業に加わってわずか1か月半で完成。構想から3年かけて開園にこぎつけた。

1年目は開園後すぐ新型コロナの影響を受け、2年目には夏の集中豪雨で休園を余儀なくされる日々が続いたが、SNSやテレビなどの効果もあり、昨年は5000人以上が来園した。

「村外の人たちから認知されるようになったことで最初は様子をうかがっていた村の人たちも認めてくれるようになってきたのはうれしいです」

また「お客さんから『泊まれないの？』と聞かれることが多かったので、樹木見本園と広場一帯に、木の上で過ごせる宿泊エリア『空中キャンプ』を計画しました」とジョランさん。同エリアは2023年6月半ばに村民限定で開業、一般向けには7月からを予定している。

日本にはなかった新たな森林の活用法を十津川村から発信し続けるジョランさんの活動に今後も注目していきたい。

Profile

1992年、フランスに生まれる。

アフリカや北欧への留学を経て2014年に来日。関西学院大学大学院で経営学を学ぶ。

卒業後は十津川村の地域おこし協力隊として3年間活動し、2020年4月にレジャー施設「空中の村」を開園した。