〈生駒市〉500年続く奈良の伝統工芸を日常空間に/『翠華園 谷村弥三郎』谷村 圭一郎さん・ゆみさん

国内生産量の9割を担う“高山茶筌”

国内生産量の9割以上を占める茶筌の一大産地・生駒市高山町。この地で作られる茶筌は『高山茶筌』の名で知られています。

室町時代に鷹山城主の二男・鷹山宗砌(そうせつ)に始まる、約500年の歴史を誇る伝統工芸品で、その秘伝の技は一子相伝により脈々と受け継がれています。

茶筌づくり最難関の工程『味削り』。茶の味は味削りによって変わるとも

1975年前後に茶道が全盛期を迎えると、高山の茶筌業者は50軒近くにまで拡大。しかし以降は茶道人口が年々低下、職人の高齢化も進み現在は18軒まで減少しました。

その中で『翠華園 谷村弥三郎商店』の谷村圭一郎さん・ゆみさん夫妻は、茶筌や抹茶を身近に感じてもらおうと日々奮闘しています。

地域への恩返しを胸に茶筌師の道へ

同店は1908年の創業。当主は代々「弥三郎」を受け継ぎ、現在は圭一郎さんの父・佳彦さんが3代目「弥三郎」として茶筌作りに勤しんでいます。

圭一郎さんは高校卒業後に奈良を離れ、アメリカへの留学を経て神戸で会社員として働いていましたが、「代々受け継がれてきた家業を継ぐことで地元に恩返しを」と4年前に退職し、妻のゆみさんと里帰り。父の下で見習いとして茶筌師の道を歩み始めます。

中央に立つのが3代目弥三郎の佳彦さん

斜陽産業となる中で、これまでに茶事や茶懐石、茶道教室を開いたり、近隣の高山竹林園に出向き、小中学生を相手に茶筌の製作実演をしたりと様々な企画を行ってきた同店。

しかし、コロナ下の影響で茶事や教室は休止、また茶会が開かれなくなったことで茶筌の注文も激減しました。

併設の茶室ではお抹茶が頂けます!
子どもたちにわかりやすく茶筌づくりを伝えるための紙芝居。主人公はゆみさん考案の「チャーセンくん」

こうした現状の中で、茶筌や抹茶をより身近に感じてもらうため、新ブランド『SUIKAEN』を創設しました。

海外でも人気!オシャレな茶筌たち

新ブランドでは黒や白が定番だった穂編み糸に赤や青などカラフルに染めた糸を使用し、市松模様や縞模様を表現。結び目にチャームを付けた茶筌も制作しています。

『七色茶筌』

しかし当初、弥三郎さんはこれに反対していました。

「日本ではサミットなどで海外の要人に対し茶をもてなす。ゆえに『お茶は国際的に見ても最大限フォーマルでなくてはいけない』という考えがあり、それを崩すことで、家元や茶道家が長く守ってきた格式を落としてしまうと考えていました」と弥三郎さん。

現在では2人の覚悟を感じ、ブランド名をローマ字表記として一線を画すことを条件に立ち上げを認め、活動を見守っています。

結婚式などお祝いの贈答用に白と銀をあしらった「環-Tamaki-」
波打つ編み糸に技術の高さを感じます

「SUIKAEN」の主な市場は海外。初年の目標は “全大陸制覇”。共に留学経験がある強みを生かして、英語での発信や海外からの問い合わせにも対応しました。

その結果、東南アジアをはじめ、北米、ヨーロッパなど幅広い国々に品物を卸すことに成功。「アフリカは無理だと思っていたけど、問い合わせがあり驚いた」と圭一郎さん。

ただ売るだけではないこだわりも。

「編み糸以外、茶筌の作り方は一切変えていないし、海外の大量生産物ではない本物だからこそ、価格も安くありません。納得して購入いただけるよう、WEBミーティングで茶筌の知識や生産の背景、作り手の思いを全て伝えた上で購入を決めてもらっています」

また情報発信はインスタグラム。商品紹介だけでなく、抹茶のレシピや新たな茶筌の使い方を提案しています。

一家に1本、茶筌いかがですか?

「茶筌が1本あれば器は何でも代用できるし、いくつあっても構いません。茶道では1つの茶碗を回し飲みますが、1つの茶碗でお茶を点ててから人数分のコップやグラスに移し替えるという使い方もあっていいと思います」とゆみさん。

奈良のガラス工房製作の片口茶碗。点てた茶が分けやすい!

今後は「大阪の人は家に必ずたこ焼き器があると言われるように、奈良の人の家には必ず茶筌があると言われるくらい日常生活において身近なものにしていきたい。目指すは “一家に1本” です!」と目標を語ってくれました。

Profile

谷村圭一郎/ゆみ

TANIMURA KEIICHIRO/YUMI

共に1986年生まれ。圭一郎さんは生駒市高山、ゆみさんは奈良市の出身。神戸から圭一郎さんの故郷・高山に戻り、2020年7月から新ブランド『SUIKAEN』をスタート。「伝統を楽しむ日常」をコンセプトにインスタグラムを通じて高山茶筌の魅力を国内外へ発信中。

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