編集長のメッセージ(3月)

資料の整理をしていたら、義父が書いた「行き当たりばったり フルムーンの旅日記」の原稿が出てきた。義父は、大病を患った義母の回復を待って、何とか義母を喜ばせたいとフルムーン旅行に連れて行くようになり、それを使って日本全国を旅するのが二人の生きがいになった。
ついには二人で日本列島をほぼ制覇したのではないだろうか。

さらにそれを記事にしてミニコミ紙に連載、誤字脱字が多く、文章もハチャメチャなところもあったが、読者の皆さんは寛容に受け止め、次はどこに行くのかと楽しみにしてくださった。

正式に言うと「フルムーン夫婦グリーンパス」のことで、JRが国鉄時代に売り出したチケットだ。
夫婦の年齢合計が88歳以上で適用される。5日間、7日間、12日間の3種類の期間があり、全国のJRのグリーン車が乗り放題になる格安チケット。すっかり「フルムーン」で定着していた。

なので、義父母は二人で行く先も決めずにふらっと出発し、たとえば1回の旅で秋田から長野へとか、九州から四国へとダイナミックな行程で旅をしていた。

そんな旅が15年もできたのも、二人の生涯の思い出が作れたのも、フルムーンのお陰である。

ページをめくると、最後の方に、二人が選んだ風景ベスト10が書かれている。

①青森・紅葉の八甲田山
②熊本・暮秋の阿蘇外輪山一帯の草原
③3月下旬の霧ヶ峰から望む雪の日本アルプス連山
④網走のオーロラ砕氷船
⑤山形・芭蕉が歩いた山の寺
⑥長崎鼻より見る開聞岳の夕日
⑦大台ヶ原の秋
⑧秋田港の冬の夕日
⑨徳之島より戦艦大和が沈没した方向に建てられた大鳥居
⑩道南の大沼公園より駒ヶ岳を望む風景。

私たち夫婦も気づけばとっくの昔にフルムーン旅ができる年齢になっている。
両親が巡った場所を、この日記を読みながら、追体験したいと思ったが、残念ながら「フルムーン夫婦グリーンパス」は昨年発売されず、事実上の終了となったようだ。
40年間シニアの旅を支えてくれたフルムーン。あっけなく終わってしまい、残念でならない。
格安なだけに40年も経てば採算も合わなくなってきたのだろうか。
チケットを心待ちにしていたのにがっかりしている方は多いだろう。

旅がもたらす恩恵はたくさんある。
人生の思い出づくりのために、JRさん、もう一度復活させてください。

よみっこ編集長 朝廣 佳子

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