恥には恥で返す神

のどかな風景の中の箸暮古墳。右が前方部、左が後円部

《連載》
新日本妖怪紀行|第30回

恥には恥で返す神

奈良の中でも重要文化財が集中している桜井市に行ってきました。単線の電車に揺られてJR「巻向まきむく」駅で降ります。そのあたりに纒向まきむく遺跡があり、古墳が密集している地域で、いまだ解明されていない邪馬台国の有力な候補地なのです。
その中でも今回は、全国の巨大古墳のモデルになったと言われる、最古級の前方後円墳「箸暮はしはか古墳」にまつわるお話です。
倭迹迹日百襲姫命大市墓の石碑

夜にしか来ない神

『日本書紀』巻第五「崇神天皇すじんてんのう」の頃に出てくるお話です。天皇のおばにあたる倭迹迹日百襲姫命やまとととびももそひめのみことは聡明で、武埴安彦たけはにやすひこの反乱を予知して天皇を助けたこともあり、今で言う知的美人というところでしょうか。その姫が大国主神おおくにぬしのかみといっしょに国作りを完成させた大物主神おおものぬしのかみの妻となります。でも大物主神は、昼は来ないで夜だけやってきます。それで姫はこう言います。「あなたは、いつも昼はおいでにならないので、そのお顔を見ることができません。どうか、もうしばらくいてください。朝になったらあなたの、うるわしいお姿が見られるでしょうから」と。
そりゃそうですよね。毎夜毎夜、闇の中で顔も見えない夫に会っても楽しくないでしょう。すると大神も「もっともなことだ。私は明日の朝、あなたの櫛函の中に入っていよう。だが、どうか、私の姿を見ても驚かないように」と言うのです。
姫はなんだか変だなあ、と思いながらも朝が来るのを期待して待ちました。

人と神の共同作業

ようやく夜が明け櫛函を開けると、そこには、美しい小蛇こおろちが入っているではありませんか。しかし姫は、あまりのことにあっと驚いて叫んでしまいます。すると大神は恥ずかしくなって人の姿になりました。そして「お前はがまんできずに、驚いて私に恥をかかせた。今度はお前を恥ずかしい目に遭わせよう」と言って大空を駆け、御諸山みもろやま(現在の三輪山)に登られたのです(でも、朝に人間の姿になれるのなら、なんで?って思いますよね)。

その様を姫は仰ぎ見て大いに後悔し、どすんと尻もちをついて座り込みました。そのとき箸で陰部を突いてしまい、なんとそのまま死んでしまったのです。

姫の墓を人々は「箸墓」と名づけました。でも墓の名前から死因がわかって、よけい恥ずかしくて、かわいそうな気がします。そしてその墓は、昼は人が造り、夜は神が造ったと言われ、大坂山(現在の二上山)の石を運んで造りました。しかも人々が連なって、石を手渡しで運んだということです。しかし、現在の直線距離で17・5㌖はあります。いったい何人の人が連なったのでしょうね。

箸墓古墳の拝所。ここから墓を拝みます

古墳めぐりは楽しいですよ

現地に行ってきました。平成25年に研究者による立ち入り調査が行われましたが、なにしろ陵墓地なので一般の立ち入りはできません。現在では3世紀中頃に造られたということがわかっていて、卑弥呼の墓とする説もあります。現にあちこちに「卑弥呼の里にようこそ」という看板がありました。

ちょうど古墳の全景が見られるスポットに、おしゃれなカフェがあって、そこでゆったりながめるのがよかったです。また、この付近は古墳が密集しています。たまにはのんびり、古墳めぐりのお散歩なんてのもいいですね。
大市墓(おおいちはか)の注意書き。むやみなことはせぬように
文・写真提供

竹林 賢三

TAKEBAYASHI KENZO

*掲載内容は2018年01月に取材したものです
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