運命の赤い糸をたずねて〈新日本妖怪紀 第37回〉

苧環塚。ここに残った3巻きの赤い糸が埋められているという……

《連載》
新日本妖怪紀行|第37回

運命の赤い糸をたずねて

運命の糸で男女を結びつける「赤い糸伝説」に類似した話は、洋の東西を問わずいろいろな国にあります。もとは中国のお話と言われていますが、もちろん日本にもあり、ただの昔話ではなく『古事記』に記されている物語なのです。
いつかは出会うとされる運命の人をつなぐ赤い糸をたずねて、今回は三輪まで行ってきました。

神と契った乙女

まず向かったのは大神神社おおみわじんじゃ。この神社は後方の山そのものがご神体。その神、大物主おおものぬしと人間の間に運命の赤い糸は結ばれました。まずは、そのお話をご紹介しましょう。
この大神の地にイクタマヨリビメという美しい乙女がいて、彼女に会いに毎晩通ってくる男が、これまた姿かたちや振る舞いが、他に比べる者がいないほど素晴らしかったのです。二人はかれあい、夜の間だけ床を共にしました。そして、それほど月日が経っていないのに、なんとイクタマヨリビメは身ごもってしまったのです。
何も知らない彼女の両親は、娘が身ごもったのを怪しんで「お前は夫もいないのに、どうして子ができたのだ」と聞きます。すると娘は「うるわしい殿方がいつも夜にいらして、名前も知らないのですが、心ひかれるうちに身ごもってしまったのです」と答えました。
両親は心配して「赤土を床の前にまいて、糸巻きに巻いた麻糸の端を針に付け、殿方の衣の裾にこっそり針を通しなさい」と言いました。娘はその通りにして、殿方が帰った朝に見てみると、針を付けた麻糸は部屋の戸のカギ穴から外に出て、枕元の糸巻きには、糸が3巻きしか残っていなかったのです。それを見た両親は「これはただの男ではない」と、抜け出た糸をたぐっていくと、三輪山の神の社に行き着きました。そこで娘の子は神の子であることを知ったのです。その赤土が付いた糸を「運命の赤い糸」として、大切な人を導く糸と言うようになりました。(美輪山の神は蛇の姿ですからカギ穴を通って、乙女の元に通ったのでしょうね)。
大神神社の近く、若宮社にある「おだまき杉」

塚を求めて歩いたのなんの

その残った3巻きの糸を埋めた場所という所に行ってきました。奈良の伝説を紹介した本には「大神神社の一の鳥居を出て右に行くと街道沿いにある」と書いてあったので、とにかく向かいました。でも、なかなか見当たりません。逆方向かと思い戻って何軒かのお店で聞いても「さあ、知らんなあ」「箸墓はしはかの方にあったような……」というようなお答え。
本の記述によると、ちょっと行った所にすぐあるかのような書き方です。「これはおかしい」と思いつつも、もう一度、右方向に行って「なかったとしても、巻向まきむく駅から帰ればいいや」と思っていたら、20分ほどしてそれらしい石を見つけました。「ああ、これか」と思いましたが、なんの説明板もありません。でも、すぐ横に「縁結び 赤糸の小道 周遊ルート」の地図があって、この石の写真に「苧環塚おだまきづか」と書いてあり、この塚と確信しました。
「縁結び 赤糸の小道 周遊ルート」の地図。約4kmの道のりです

伝説は足で書こう

こういう伝説を紹介する本は、実際に現地に行って「足で」書いてほしいです。でも実際は、いろんな本を写して現地に行かずに書く場合がほとんどです。大手の出版社から出ている本でも、奈良ではありませんが場所が間違っていて、写真も左右反転しているものがありました。やはり現地は歩いてほしいです。
三輪では歩き疲れましたが、三輪そうめんはコシがあっておいしく、道を尋ねたお菓子屋さんのおねえさんも、コロッケ揚げてたおっちゃんも対応がやさしくて、そんなふれあいに、奈良の良さを改めて実感した一日でした。
大神神社の一の鳥居。 ここを出て右に行くのですが……
文・写真提供

竹林 賢三

TAKEBAYASHI KENZO

*掲載内容は2018年08月に取材したものです
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