大切に守られた牛の宮伝説の森

これが今に残る「うしの宮」の石碑

《連載》
新日本妖怪紀行|第33回

大切に守られた牛の宮伝説の森

いつの時代のことかはわかりませんが、大和郡山市池之内町野神に伝わる伝説をご紹介します。

最近は終身雇用の世の中ではなくなってきたようで、いわゆる「勤め上げる」という感覚が薄れてきたような気がします。今回は死してもなお主人に仕え、年季を勤め上げた少年のお話です。

少年が3年、牛が3年

ある農家に6年間の年季奉公で働くことになった10歳の少年がいました。年季奉公とは、一定期間、住み込みで働く契約のことです。少年の家族がお金に困ったからなのか理由はよくわかりませんが、6年間働くということでやってきました。

その少年は主人によく仕え、くるくるとよく働きましたが、ふとしたことから病に倒れ、そのまま息を引き取ってしまいました。かわいがっていた少年が亡くなって悲しんでいた主人はその夜、夢を見ました。少年が夢の中に出てきてこう言うのです。
「今までたいへんお世話になりました。明日の朝、牛買いが家の前にやってきます。その牛を年季の明けるあと3年、使ってやってください。牛の毛は私と同じで真っ黒です」

主人は不思議な夢を見たものだ、と思っていると、本当に次の朝、牛買いが牛を連れてやってきたのです。さっそく牛を買い取って使ってみたところ、他の牛の何倍もよく働き、しかも、とても賢いのです。主人は満足して、牛を少年のようにかわいがりました。

そして3年が経ち、ちょうど年季が明けた日に、牛はばったりと死んでしまったのです。きっと少年の霊が牛となり、残りの3年を勤め上げたのだと言って、牛の亡きがらを丁寧に葬りました。それが池之内町の「牛の宮」伝説です。

この一角だけがこんもりと茂る伝説の森
伝説の森にある案内板

今も続く地元の行事

さっそく現地に行ってみました。JR「大和小泉」駅から北東に10分ほど歩いた道沿いに、こんもりとした森があります。森の中をのぞくと、この時期は笹でおおわれていて見えにくいのですが、ちゃんと「うしの宮」と刻まれた石碑がありました。森のすぐ横は青空駐車場で、周りは田畑です。現地の案内板にも書いてありましたが、調べてみると、地元では毎年5月5日に「牛の宮参り」という行事が行われているようです。その日の、日の出前4時30分頃、数え年で16歳になる男の子が親と一緒にこの石碑の所にやってきます。しかも道中、人に会っても決して話してはいけないという約束を守って……。

男の子は石碑の前に、お酒やわかめ、雑魚などを供えて「明日から村の仕事に勤めます」と宣言します。そうして、一人前の大人として村の行事に参加できるようになるということです。いわゆる元服のための行事ということで、そのお昼頃、地区では子どもたちにしんこ(団子)を振る舞います。私は見たことがないので、その通りかどうかはよくわかりませんが、毎年続いている行事ということです。このような観光化されることのない、地元の行事や神事は継続してほしいと常々願っています。
道路から見た伝説の森、正面に石碑が見えます

大切な森を守るために

「牛の宮」のような行事は理由を問うより続けることに意義があって、伝説を風化させない取り組みは、地元の人たち、特に子どもたちに地域への関心を持たせるために大いに奨励したいと思います。そして、その案内板の最後にこう書いてありました。
「池之内町では、この森を大切にしています。森を荒らしたり木々の枝を折った者には不幸が来ると伝えられています」

これもまたいいですねえ。AIの発達で人間が恐れるものがなくなっていくような風潮のなか、侵してはいけない領域があることの大切さも伝えていきたいものです。
文・写真提供

竹林 賢三

TAKEBAYASHI KENZO

*掲載内容は2018年04月に取材したものです
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