《連載》自然と暮らす vol.177
ジビエ専門店まると（十津川じびえ塾）／中垣 十秋さん
十津川村からジビエの魅力を発信！
例年、農林漁業に深刻な影響を及ぼしている野生鳥獣被害。日本全国での被害総額は年間155億円にも上り、その内100億円がシカとイノシシによるものだ。近年では被害防止等を目的とする捕獲が中心に行われ、捕獲頭数は大幅に増加。年間125万頭（シカ・イノシシのみ）が捕獲されている。しかし一方で、ジビエなどに利用されるのは約１割。残りは廃棄される。
農林漁業と、農山漁村に暮らす人々を守るために有害鳥獣駆除は必要不可欠だが、捕獲した命は無駄にしたくない。そんな思いから十津川村で有害鳥獣駆除員として活動するのが、中垣十秋さんだ。
中垣さんが猟師の世界に飛び込んだのは、食肉加工に携わる父・英一さんが立ち上げた「十津川じびえ塾」の手伝いをするようになった時。「当時は“動物を殺す”という嫌なイメージを持っていました。でも活動をする中で、畑を食い荒らしたり、危害を加えたりする有害鳥獣から人を守る活動をしているんだという意識に変わりました」と中垣さん。
一方で有害鳥獣の被害状況や猟師の活動を知らない人は多い。鹿肉の唐揚げの出張販売に橿原市へ出かけた時のこと。市街地に住む人の“シカ”といえば奈良公園のシカのイメージが強い。中には「シカを殺すのは野蛮だ」、「サイコパスだ」などと話していた人もいた。
中垣さんは高校3年でわな猟の免許を取得。猟師の道に進むことを決めた。駆除活動は、連携する地元猟師から獲物がわなに掛かった連絡を受けて捕獲に向かう。多くても週１回、全く掛からないこともある。そのため姉の夏紀さんと共にジビエペットフード会社「JACK」とジビエレザー加工会社「JIMAJA」の運営も準備中。多角的なジビエ利用の普及活動を行う。
獲物は生け捕り。脚を強度の高いOPPテープでくくり、加工場まで運んで絞める。その後は15分以内に血抜きと内臓摘出を行う。
死んでから時間がたつと、内臓が発酵して臭いが肉についてしまったり、肉が硬くなってしまったりする。また猟銃捕獲では体内に銃弾や血が残ることがあり、これも臭みの原因に。全ては“新鮮で臭みのない、おいしい肉を食べてほしい”というこだわりのためだ。
※本文中の数値は令和3年度のもの
Profile
